昨今、コスト削減やスピード感のある施策実行、そして社内へのノウハウ蓄積を目的として、マーケティング業務を外部委託から「内製化(インハウス化)」へ切り替える企業が急増しています。しかし、意欲的に内製化をスタートさせたものの、想定していたような成果が出ず、むしろ現場の疲弊や業務の形骸化を招いてしまうケースが後を絶ちません。
なぜ、多くの企業が同じような失敗をしてしまうのでしょうか。その原因の多くは、内製化に向けた準備不足や、体制構築における認識のズレにあります。単に高機能なツールを導入したり、専任担当者を置いたりするだけでは、競争力のあるマーケティング組織を作ることは困難です。
そこで本記事では、マーケティングの内製化を進めるうえで多くの企業が陥りがちな「罠」に焦点を当て、それらを回避して着実に成果を上げるための実践的なアプローチを解説します。具体的につまずきやすい失敗事例とその対策から、成果を出すためのロードマップ、そして持続可能なチームを育てるためのステップまでを網羅しました。
これから内製化を検討されている経営者様や、現在進行形で壁にぶつかっているご担当者様にとって、現状を打破し、自社のマーケティング力を底上げするための一助となれば幸いです。ぜひ最後までご覧ください。
1. 失敗事例から学ぶ、多くの企業が最初につまずく3つの落とし穴と対策
マーケティング活動を社内で完結させる「内製化(インハウス化)」は、コスト削減やノウハウの蓄積、意思決定のスピードアップといった大きなメリットをもたらします。しかし、準備不足のままスタートさせ、成果が出ずに頓挫してしまうプロジェクトも少なくありません。ここでは、多くの企業が初期段階で陥りやすい3つの典型的な失敗パターンと、それを確実に回避するための対策について解説します。
落とし穴1:担当者の「兼務」によるリソース崩壊**
最も頻繁に見られる失敗事例が、既存の営業担当者や企画担当者に、Webマーケティングの実務を兼任させてしまうケースです。「空いた時間でブログを書く」「通常の業務の合間に広告を運用する」といった甘い見通しで始めると、必ず本業の繁忙期にマーケティング業務が停止します。継続性が命であるマーケティング施策において、更新のストップは致命的です。
* 対策: 内製化を成功させるには、担当者のリソース確保が最優先事項です。可能な限り専任者を配置するか、兼務の場合は既存業務を他へ移譲し、業務時間の50%以上をマーケティングに充てるような体制を整えてください。リソースが不足する場合は、記事作成やバナー制作などの作業ベースから外部パートナーを活用し、コアとなる戦略部分から徐々に内製化を進めるのが現実的です。
落とし穴2:高機能ツールの導入自体が目的化する**
「MA(マーケティングオートメーション)ツールを入れれば売上が上がる」という誤解も大きな落とし穴です。HubSpotやSalesforce、Marketoといった高機能なツールは強力な武器ですが、それを扱うための戦略設計やシナリオ構築、コンテンツ制作が追いついていなければ、単なる高額な顧客リスト管理システムになってしまいます。使いこなせない機能に毎月高額なコストを支払い続け、最終的に解約するという事例は後を絶ちません。
* 対策: ツールはあくまで手段です。まずは自社の課題を明確にし、身の丈に合ったツール選定を行いましょう。最初はGoogle アナリティクスなどの無料ツールや、安価で操作がシンプルなツールからスモールスタートし、運用フローが確立されてから高機能なツールへ移行するステップを踏むことが重要です。
落とし穴3:ノウハウの属人化とブラックボックス化**
熱心な担当者が独学でスキルを習得し成果を出す一方で、その運用方法や設定内容が社内の他のメンバーには全く理解できない状態になることです。これでは担当者が退職や異動をした瞬間、すべてのマーケティング活動が停止してしまいます。組織としての資産になっていない状態は、内製化のメリットを享受できているとは言えません。
* 対策: 業務の標準化とドキュメント化を徹底しましょう。運用マニュアルを作成し、定期的にチーム内でナレッジ共有会を実施することで、特定の個人に依存しない体制を構築します。また、外部のコンサルタントをアドバイザーとして招き、社内全体のスキルレベルを底上げする研修を行うことも、組織的なノウハウ蓄積に有効です。
2. ツール導入だけでは不十分?成果を出すための内製化ロードマップと体制構築
多くの企業がマーケティングの内製化(インハウス化)に取り組む際、最初に直面する最大の壁が「ツールを導入したものの、使いこなせずに放置される」という事態です。HubSpotやSalesforce Account Engagement(旧Pardot)、Marketoといった高機能なMA(マーケティングオートメーション)ツールを契約しただけで、自動的にリード獲得数が増えたり、顧客育成が進んだりすると錯覚してしまうケースは後を絶ちません。
内製化を成功させるためには、ツールはあくまで「手段」であり、それを動かす「戦略」「人」「プロセス」の設計が不可欠です。ここでは、失敗を回避し着実に成果を上げるためのロードマップと体制構築のポイントを解説します。
成果を出すための内製化ロードマップ
いきなりすべての業務を内製化しようとすると、リソース不足やノウハウ不足でパンクします。以下の3つのフェーズに分けて段階的に進めることが重要です。
フェーズ1:基盤構築と戦略策定(準備期)**
まずは現状の可視化から始めます。Google Analytics 4(GA4)などの解析ツールを用いてWebサイトの現状数値を把握し、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を設定します。この段階で「誰に」「何を」「どのように」伝えるかというペルソナ設計やカスタマージャーニーマップの作成を行います。ツール選定はこの戦略が決まってから行うべきです。
フェーズ2:定型業務の一部内製化(試行期)**
すべての施策を同時に走らせるのではなく、メールマガジンの配信やブログ記事の更新など、ルーチン化しやすい業務から内製化を開始します。ここで重要なのは、外部パートナーに依存していたブラックボックス化した業務フローを解きほぐし、社内にマニュアルとして蓄積することです。小さな成功体験(クイックウィン)を積み重ね、社内のモチベーションを維持しましょう。
フェーズ3:高度な施策の実行とPDCA(拡大期)**
基礎的な運用が定着したら、MAツールを活用したスコアリングやシナリオメールの自動化、Web広告のインハウス運用など、より高度な領域へ踏み込みます。この段階では、施策の実行だけでなく、データを分析して改善策を立案するPDCAサイクルを自社のみで回せる状態を目指します。
持続可能な体制構築のポイント
ロードマップを描いても、それを実行する「体制」が脆弱であれば計画は頓挫します。マーケティング内製化において、特に注意すべき体制づくりの要点は以下の通りです。
* 「兼任」ではなく「専任」担当者を置く
よくある失敗が、営業担当や広報担当にマーケティング業務を兼務させるパターンです。片手間の運用では、複雑化するデジタルマーケティングのトレンドに追いつけず、ツールの学習コストも確保できません。最低でも1名、可能であればリーダーと実務担当者のチーム体制を敷くことが理想的です。
* 営業部門との連携(Smarketing)の強化
マーケティング部門が獲得したリード(見込み顧客)を、営業部門が適切にフォローしなければ売上にはつながりません。両部門が定期的にミーティングを行い、「良質なリードの定義」や「商談化のフィードバック」を共有する仕組みを作ることが、内製化の効果を最大化させます。
* 外部専門家の戦略的活用
「内製化=すべて自社だけで完結する」と固執する必要はありません。高度な専門知識が必要な広告運用の初期設定や、テクニカルSEOの診断、MAツールの実装設計などは、スポットで外部のコンサルタントやエージェンシーを活用する方が、結果的にコストを抑えつつスピード感を持って進められる場合があります。
ツールは魔法の杖ではありません。明確なロードマップと強固な体制があって初めて、その真価を発揮します。まずは自社のリソースと目標を照らし合わせ、無理のない範囲から段階的に内製化の領域を広げていくことが、長期的な成功への近道です。
3. コスト削減以上の価値を生む、持続可能なマーケティングチームを育てる具体的ステップ
マーケティングの内製化(インハウス化)において、多くの企業が最初に掲げる目標は「外注費の削減」です。しかし、単に広告代理店や制作会社への支払いを減らすことだけを目的にすると、チームは疲弊し、長期的には成果が先細りしてしまうリスクが高まります。真の内製化の成功とは、コストカットそのものではなく、社内に深い顧客理解とスピーディーな実行力が蓄積されることにあります。
ここでは、一過性の節約に終わらせず、企業の資産として機能し続けるマーケティングチームを構築するための具体的なステップを解説します。
ステップ1:スキルマップの作成と「できないこと」の明確化
持続可能なチームを作る第一歩は、現状のリソースを客観視することです。SEO対策、Web広告運用、コンテンツ制作、データ分析など、マーケティング業務は多岐にわたります。まずはチームメンバーのスキルマップを作成し、誰が何を得意とし、どの領域が不足しているかを可視化してください。
ここで重要なのは、「全てを自分たちでやる必要はない」と割り切ることです。例えば、戦略立案や記事の執筆は社内で行い、高度な専門知識が必要なテクニカルSEOや複雑な広告タグの設置などは、スポットで外部専門家に依頼するといった線引きを行います。無理な完全内製化は品質低下を招くため、コア業務に集中できる環境を整えることが先決です。
ステップ2:ナレッジの標準化とドキュメント化の徹底
内製化チームが陥る最大の危機は「属人化」です。「あの担当者が辞めたら広告アカウントの構造が分からない」「GA4の設定意図が不明」といった状況は、組織にとって致命的です。これを防ぐために、業務プロセスを徹底的にドキュメント化します。
* オペレーションマニュアル: 入稿手順やレポート作成方法の手順書
* 意思決定ログ: なぜその施策を行ったのか、なぜそのキーワードを選んだのかの背景
* トラブルシューティング: 過去に起きた問題とその対処法
これらをNotionやGoogleドキュメントなどのクラウドツールで共有し、誰でもアクセスできる状態にします。マニュアルを作成する過程自体が、業務の無駄を見直すきっかけにもなり、新入社員の教育コスト削減にも直結します。
ステップ3:教育体制の構築と外部メンターの活用
チームを育てるためには、実践を通じた学習(OJT)だけでなく、体系的なインプットの機会が必要です。しかし、社内に指導できるレベルの熟練者がいない場合も多いでしょう。
その際、有効なのが「内製化支援」を行っている外部パートナーを「メンター(教育係)」として招くアプローチです。単に作業を代行してもらうのではなく、週に1回の定例ミーティングで分析手法のレクチャーを受けたり、施策に対するフィードバックをもらったりする契約形態をとります。これにより、社員のスキルアップを加速させながら、自社内にノウハウを確実に蓄積させることができます。
ステップ4:成果指標(KPI)の再定義と評価制度の連携
内製化チームのモチベーションを維持するためには、評価指標も変える必要があります。「広告費をいくら削減したか」だけでなく、「リード獲得単価(CPA)を維持しながら件数をどれだけ伸ばしたか」「顧客からのフィードバックをどれだけプロダクト改善に活かせたか」といった、事業成長への貢献度を評価します。
また、新しいツール(HubSpotやSalesforceなど)の習得や、新しい施策への挑戦自体を評価プロセスに組み込むことで、変化の激しいデジタルマーケティング領域において、常に学習し続ける文化を醸成できます。
まとめ
持続可能なマーケティングチームとは、単なる作業部隊ではなく、市場の変化に対応して自ら戦略を修正できる「学習する組織」のことです。スキルを可視化し、ナレッジを共有し、適切な教育投資を行うこと。このプロセスを着実に踏むことで、内製化はコスト削減以上の莫大な価値を企業にもたらします。



